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地元ボランティア団体による指導

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

 
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“735スタイル” の海難救助訓練

神奈川県逗子市にある浪子不動。その沖でリーフブレイクするサーフポイント、「浪子(なみこ)」があります。

我々、地元サーファーを中心としたボランティア団体の『735style(なみこスタイル)』は、その浪子周辺や逗子海岸を活動拠点とし、海岸環境の再生、美化のための活動を2017年より行っています。
毎月第1日曜日に実施しているビーチクリーン活動や、増え続けているウニなどが原因と考えられ、海藻等が減少している「磯焼け」を防ぐため、ウニを採捕する「磯焼け対策」などを中心に活動しています。

逗子海岸ではサーフィン、SUP、ウィンドサーフィン、ヨット、シーカヤック、フィッシングなど、さまざまなマリンスポーツが盛んです。
逗子市は都内からのアクセスも良いため、日帰りで気軽に来ることができ、海に慣れていない方がSUP等で楽しむ姿が多くみられる中、サーフポイントの「浪子」では、数年前、実際にサーフィン中に体調を急変させる事案や、AEDを実際に活用し、救命に至った事案も発生しています。

このような背景を抱えた逗子の海で、私自身がこれまで経験してきた海難事故の対処法の中でも、誰もが知っておいてほしい最低限の知識や手技について、海から多くを学ばせてもらってきた者として海に恩返しがしたい、一人でも多くの人に広めたいと、「海難救助訓練」を2022年よりスタートしました。

普段、自身で使用しているサーフボードやSUPボードを活用した、溺者に対する救助方法等をはじめ、逗子消防署に配置されている水上バイクとの海上での連携や、救急救命士による応急救護等を、地元の逗子消防署のご協力を得ながら訓練を行っています。

海で事故があったとき、要救助者を目の前にしたとき、まず、何をすればよいか。
自らの技量を知り、自分ができることをすることが何よりも重要です。助けることに囚われ、自らの命を落としてしまった方を見てきました。その時の海況やそこに居合わせた人たちで何ができるか、何をすべきか、助ける側はもとより、助けられる側も体験し、通報や複数名で行うことの必要性を訓練を通し、体感していただいています。

一人でも多くの方に参加していただきたいのですが、参加できない方にも知ってほしく、この記事を書くこととしました。

海に入る心構え

「surfers」にてブリーフィング

「surfers」にてブリーフィング

海難救助訓練では、はじめ「ブリーフィング」で、地形や海況の注意点などを話します。

 

『海に入る心構え』

  • 事前にその場所の危険なところを周りの人やローカルサーファー、地元のマリンスポーツのスクールやショップなどで確認する。
  • 体調の悪い日には海に入らない(無理をしない)。
  • 家族等に海に行くことを伝え、海に入る時は挨拶をする等、自分の存在を認識してもらう。
  • 天候(風、雷等)、海況(潮位、流れ等)などの変化を把握(予測)する。
  • リーシュコードやライフジャケット等の、自分や周りを守る装備を身に付ける。

これらをするだけでも、かなりの事故や遭難を回避できます。
『海に入る心構え』を少しでも意識し、実践する人が増えることを願います。

この日の海の様子

この日の海の様子

訓練実施責任者  比野裕介

訓練実施責任者  比野裕介

要救助者を確認したら

ブリーフィング後、訓練場所となる葛が浜(surfers下の海岸)へ移動し、陸上で救助方法のレクチャーをします。

要救助者を確認したら、

  • 助けを大声で呼ぶ。
  • 要救助者のポイントを把握する(確認する)。
  • 要救助者の状態を判断する。

まず、意識の有無を声掛け、体を揺する等により確認します。その時、意識があっても容体が悪化し、意識を消失する可能性がありますので、海から上がるよう勧めてください。

意識がない場合、呼吸管理が重要であり、口と鼻を水没させないために、自らのボードを活用します。
ここで重要となるのが、ボードと要救助者を自分より岸側に、自分は沖側に位置することです。波やうねりを意識し、ボードが要救助者や自分にあたらないようにしましょう。

周りの人に声をかけ、なるべく複数の人で対処する

海難事故は、海が荒れていたり、風が強い日などに起きやすいため、自分の技量を考え、無理をしないことです。それにより、自らが命を落とすことにつながることを理解しましょう。
複数人で要救助者を発見した場合、冷静に判断し、それぞれが役割分担できるようになることが望ましいです。
この訓練を積み重ねることで、それらを取り仕切ることができる人を目標としています。

一人で要救助者と遭遇した場合、要救助者のポイントを確認し、119番通報をするために、勇気を持って陸に上がることも重要です。
要救助者のポイントを見失わないようにするためには、そこから見える2つの目標物を目印に覚えておくとよいです。
大切なのは、あなたが助けることではなく、最大限あらゆる手段を使って、要救助者の命を救うことです。

陸上でのレクチャー

陸上でのレクチャー

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

意識がない要救助者をボードで搬送する方法

要救助者の状態を確認し、意識がない(自分でボードに上がることが困難な)場合、スムーズに無理なく要救助者を陸まで搬送するために、以下の方法を教えています。

① ボードを回転させて乗せる(短い場合は1回転、ボードが長い場合は2回転)。

② ボードを立てて、自分とボードの間のスペースに水を呼び込み、要救助者を引き込んで乗せる。

③ 要救助者の身体を仰向けにし、要救助者の脇を自分の足で挟み込んでホールドし、水に浮かせながら搬送する。

どの方法でも、ボードに乗せる前後のタイミングを見計らい、要救助者のリーシュを外し、ボードから離す必要があります。ボードのサイズなどによっては、要救助者のボードを活用して搬送することも選択肢として考えてもよい(この場合は、自分のリーシュコードを適宜外します)ですが、どのボードでも搬送できるようになるには、熟練が必要となります。
まずは普段使っている自身のボードで、スムーズな搬送ができるよう訓練しましょう。

陸でレクチャーした内容を、実際に海上で行うため、沖に出ます。

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

海上訓練は2~3人一組となって行います。全体の安全管理は私が行います。
陸上でレクチャーした順に従い、詳しく解説していきます。

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

① ボードを回転させて乗せる

ボードが短い(小さい、浮力が少ない)場合

ボードを裏返しにして要救助者の手首をつかみ、ボードのレールを掴ませます。自分は反対側のレールを掴んで、ボードを手前に(表に)返すことで乗せます。
ポイントは、要救助者の手がレールから外れないように、自分の腹部を要救助者の手首に押し当てながら、ボードを返すことです。
要救助者の向きを変え、ボードのやや上方に位置させ、要救助者の股を少し開き、そこに自分が入り、パドルして搬送します。

ボードが長い(大きい、浮力が大きい)場合

ボードが長い場合は、1度ひっくり返しただけでは要救助者を乗せきれないので、2度ひっくり返す必要があります。この場合、ボードは表(デッキ側)から要救助者へアプローチする必要があります。ボードが返りにくい場合は、自らがボードに膝を立てて乗り、体重をかけるとスムーズにできます。
要救助者をボードに乗せた後は、ボードが短い場合と同要領で行います。

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

② ボードを立てて、自分とボードの間のスペースに水を呼び込み、要救助者を引き込んで乗せる。

この方法は、ボードが大きい場合に適しています。

ボードのボトム(後方)に移動して、ボードを立てるように水面からノーズを上げます(波待ちのような体勢です)。

自分とボードの間にできたスペースに水が流れ込んできますので、水の力を使って要救助者を引き込み、ゆっくりとボードを海面に戻しながら要救助者の体の向きを整えて乗せます。その後は、①と同要領で行います。

③ 要救助者の身体を仰向けにし、要救助者の脇を自分の足で挟み込んでホールドし、水に浮かせながら搬送する。

この方法は、自分がボードから降りることなく救助でき、ボードが安定するためパドルがしやすく、要救助者を気道確保したまま搬送できます。要救助者も安定感を感じられます。

要救助者がうつ伏せの場合

要救助者を仰向けにするため、自分の右手(左手)で要救助者の左肩(右肩)を外側から抱えるように掴み、時計回り(半時計回り)に要救助者を返します。同時に自分の右足(左足)で要救助者を挟み込みます。要救助者の脇を自分の足でしっかりと挟み込んで、足首を重ねてロックし、パドルして搬送します。

要救助者が仰向けの場合

要救助者にパドルしたまま近づき、要救助者の脇を自分の足でしっかりと挟み込んで、足首を重ねてロックし、パドルして搬送します。

サーフィン・SUP中の海難救助 “735style(なみこスタイル)”の海難救助訓練

海に浮力が逃げるため、短いボードでの搬送に適しています。
足首をしっかりロックし、外れないようにしましょう。
この方法は慣れれば、非常にスピーディーに、楽に搬送ができます。
女性も訓練に参加してくれています。

前述しましたが、救助を行う際に大切なのは、自分の技量を考え、一人でやりすぎないようにすることです。できるだけ周りの人に声をかけ、なるべく複数の人で対処し、役割分担をして対処することを心がけましょう。

あなたがこの訓練に参加していれば、救助方法を既に知っているはずです。あなたが救助を担当しつつ、他のもう一人を先に海から上がるよう指示し、119番通報やAEDを搬送させるなどの役割分担ができれば、少しでも早く消防隊へ引き継ぎ、医療機関へ搬送でき、救命率が高まります。救命の連鎖を意識しましょう。

逗子消防署は水上バイクも保有しているので、早期の通報で、水上バイクでの搬送手段も選択肢となります。
私たちは、逗子消防署とも連携した訓練も実施しており、水上バイクへ引き継ぐ訓練も取り入れています。
海上での訓練を終え、陸に戻った後は、逗子消防署の救急救命士による応急救護(胸骨圧迫、AEDの使用等)の訓練を行っています。

興味のある方はぜひ、逗子消防署主催の救命講習を受講してみましょう。
救急隊からのお知らせ 逗子市公式サイト

訓練の最後に、参加者からの質問を受けて終了となります。毎回、たくさんの質問をお受けし、訓練に参加いただく方々の意識が高く熱心で、私自身大変勉強になり、刺激を受けています。

いかがでしょうか。「結構簡単だな、このくらいならできるな」、と思われたのではないでしょうか。肝心なのは、繰り返し訓練を継続し、常にできる状態をキープすることです。

繰り返しになりますが、大切なのは、あなたが助けることではなく、最大限にあらゆる手段を使って、要救助者の命を救うことです。
一人でも多くの方にこの考えが広がり、海で悲しい事故がなくなることを心より願って止みません。
是非、海で一緒に考えていきましょう。お待ちしています。

逗子消防署のご協力による、水上バイクを活用した救助訓練。

逗子消防署のご協力による、水上バイクを活用した救助訓練。

執筆者
比野裕介

比野裕介

Hino Yusuke

「海から山へ 山から海へ」
水の循環を考え、未来の世代に美しい自然環境を遺せるようにとの想いから、発足したボランティア団体「735style(なみこスタイル)」は、地元サーファーを中心としたメンバーで結成され、神奈川県逗子市での「磯焼け対策」「ビーチクリーン」「海難救助訓練」などを実施しています。
「海難救助訓練」の訓練実施責任者として活動。

ビーチクリーン、磯焼け対策、海難救助訓練などの活動はどなたでも参加できます。
日程や詳細はInstagramに随時アップしていますので、ぜひご参加下さい。お子さまもご一緒に参加できます。

https://www.735style.org/

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